WHAT'S NEW? 3/22


NEWS!!
エンジェル・ハンズ
遂に待望の電子書籍化、
絶賛発売中!!




■ENTRANCE■

編集前記エッセイ更新しました。(4/15) 

■STAGE1■


海洋冒険小説
Missing 3 〜中年南海漂流記〜」
遂に帰還なる!!

不定期連載
第26話“帰還”更新!!(6/14)

短編・掌編小説バックナンバーも多数!!
  ↓  ↓
「MELODY CALLING」 by 田村充義「1000億光年の彼方」by奥山六九 「友人28号」 by 逢谷人「最後の22分」 byワダマサシ「過去との遭遇」by逢谷人 「ナオミの夢」by逢谷人 「学校教育」 by奥山六九「ルームメイト」 by角森隆浩「潮騒のカセット(洋楽編)」 「潮騒のカセット(邦楽編)」 by 逢谷 人「赤いスイートピー」by 逢谷 人

■STAGE2■

田村充義氏の新作、
「聞き録り屋と買い取り屋」完結!

平凡この上ない僕が始めたアルバイトとは…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ショートストーリー・連載小説バックナンバー多数!!

YUMIKOUUMINAOKIMICHIRUby 杉林恭雄

走る女ゾロ目の法則 宇宙の3犬人
女子アナオールスター  ゲンジツトウヒローのダックウォーク
30年目のガールズトーク
 by 田村充義



■EXTRA STAGE■

「THE LOOONIES' ADVENTURE」


THE LOOONIES


青丸をクリックすると物語のトップにジャンプ!
まだお読みでない方は、さっそくどうぞ!

ルーニーズの冒険
全編完結…。

壮大な旅の驚くべき結末とは?!

ストーリーを締めくくる 「エピローグ」
お見逃しなく!!


◆NEWS!!◆
11/11,12にシンガポールで開催された
「ANIME FESTIVAL ASIA 2011」
経産省のCOOL JAPAN BOOTHに
THE LOOONIESが出展されました!!






知られざる名曲誕生秘話
井上陽水 『少年時代』完結。




遂に待望の電子書籍化、
絶賛発売中!


EPISODE1 「エンジェル・ハンズ」

〜誰しも心の中に鬼がいる。ある人は鬼と闘い、他の人は鬼に愛を感じる〜
恵比寿五差路に近い一軒のロックバー。
店の“テンシュ”と常連客には、共通の不幸な過去が生んだ秘密の固い絆があった。
彼らが命を懸けて立ち向かう“鬼”とは?

EPISODE2 「ファイアー・ウォール」

〜悲劇の始まりは、1999年の大晦日だった〜
恋人と肉親を一度に殺められた少年は、
やがて仲間と出会い、理不尽な犯罪と闘う“防火壁”となることを誓う。
不完全な法律が、その許されざる犯人を野に放った時…。

EPISODE3 「タイム・キラー」

〜私は“愛”のために“時”を殺した〜
1980年に起きた少年誘拐事件。身代金を運んだ父親は、二度と戻ってはこなかった。
時効成立直後、発見された三つの遺体。
昭和と平成、二つの時代の運命が再び交差したとき
そこに見えた驚くべき真実とは?

SpinOutCut 「ディープ・フォール・ブルー」

〜誰かを想う気持ちは、晩秋になりやっと熟成する〜
Barエンジェル・ハンズを舞台に起こった小さな恋のエピソード。
それは、ほろ苦いカクテルの味がした。
シリーズ初のスピンアウトストーリーをお楽しみください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



◆このブログが気に入ったら、つぶやいてください。

2009年02月12日

巻頭小説 「イキル」<最終回>

Story By 藤岡孝章×ワダマサシ

<5>

イキルッテ、ソレだケデス晴ラシイ
イノチッテ、ソレだケデカがやイテイル


わたしは、寿司通ぶる男が意外にも権威に弱い事を誰かに聞いたことがある。
この店は有名店だとか、板前がテレビで顔を知られているとか、タレントの誰某が愛用しているとか、そんな風評の先入観が味を決めてしまうものなのだろう。
わたしは午前中いっぱいを使って、本屋のグルメ本を立ち読みして回り、ついに決定的な店を探しあてた。
誰が見ても知っている有名な板前が、マグロに命をかけて握っているという名店。
多少値は張るが、社費ゆえなんとかなるだろう。
新橋にある「N」という寿司屋が、わたしが選び抜いた名店だった。
案の定、馬場課長はご満悦で出されたものをパクパクと飲み込んでいる。
なにが、イカはスルメに限るだ。笑わせるぜ。
馬場課長の笑顔を見て、部長も満足そうに酒を飲んでいた。
夢中で機嫌をとったせいか、あっという間に息の詰まる接待会食の二時間が過ぎていた。
わたしがその間口にしたのは、刺身ふた切れと寿司の巻物が一本だけ。

「今日は、本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします!」
深々と頭を垂れて課長に土産の寿司折りを渡し、やっとのことでお役ゴメンと安堵に胸を撫でおろしていると、部長から声がかかった。
「鈴木君、今日は楽しいねえ。馬場課長ともう一軒だけ飲みなおすから、チミもついていらっしゃい」
部長はそう言って、小指を一本突き立てている。
「え?わたしはもう…。でで、電車もなくなりますし」
晩く帰った翌朝の家内の形相が、脳裏に浮かぶ。
「いいから、いいから!なにをこの期に及んで、不粋なことを抜かしよってからに!」
「は、はあ…」
「鈴木係長、まだいいじゃないですか。飲みましょうよ」
馬場課長が怪しげな、ニヤニヤ笑いを浮かべわたしをジロリと見た。
「は、はい。軽くでしたら、お付き合いさせていただきます…」
わたしが馬場課長の肩を抱え、三人はよろよろと新橋の雑居ビルに入っていった。

仕事関係でなかったら、絶対に酒席を共にしたくない連中と酌み交わすアルコールなど、旨かろうはずもない。
しかもこの店は、高い割には質の悪いババアのようなホステスが一人づつ間に入るので、話がよけいにややこしくなる。
ただ課長に薦められるままに口にダラダラと酒を流し込んでいくうちに、わたしは悪酔いをしてしまったようだった。
馬場課長が、ピンクのドレスを着たおばさんの乳首の場所をツンツンと人差し指で探り始めている。
「ここか?」
「外れ〜」
「じゃ、ここ?」
「いやん、そんな下じゃないわよ」
「じゃあ、ここだ!」
「ピンポン、チンポ〜ン」
「うひょひょひょひょひょ〜。楽しい〜。楽しいねえ、鈴木係長!」
「は、はい。最高っす」わたしは冷や汗を拭いながら答えた。
「ねえねえ。フル〜ツの盛り合わせ頼んでいいカシラン?ケサラン、パサラン」
頃合を見て、となりのやり手ババアが、わけのわからん口上でわたしに押し売りを始めていた。
この手の飲み屋でフルーツ盛が鬼門であることは、男の常識だ。
「さ、さあ…」
「いいじゃないの。フル〜ツ。ドーンといったりなさいよ」馬場課長が言った。
「はい〜!フル〜ツ超特盛一丁頂きました〜!」ババアが調理場に叫んだ。
わたしの記憶は、ここで一旦ピタリと途絶えている。

「鈴木クン、鈴木クン。キミはまったく失礼なヤツだなあ。お客様の前でイビキかいて寝おってからに」
「は?ここはどこですか?」
「憶えておらんのかね?」
天井のミラー・ボールが、ゆっくりと回転していた。
「馬場課長はたった今、ハイヤーに詰め込んでお帰りねがったから。じゃあ、引き上げるとするか。ここ、お勘定頼むよ」
「は?は、はい。チェックしてください」わたしがババアに告げた。
ボーイが持ってきた明細を見て、わたしはわが目を疑った。
「ぶ、部長…。こ、これ」
「ん?んんん?ん〜?いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん…。 え?さんじゅうはちまん、ななせん、にひゃく、ごじゅうにえん?!」
「た、高くないっすか?このグレードで。銀座じゃなくて新橋の場末ですよ!」
「これは、社費では落ちんなあ。鈴木クン、チミが個人的に払いなさい」
「え?無理、無理っす!絶対無理っす!」
「だって、チミがフル〜ツの特盛を頼んだんだからあ。あれ高いんだよ。知らんのか?マンゴとか入っちゃってさあ」
「で、でも、かり、仮、仮払い使い切って、キャッシュがあり、あり、あり、ません」
「カードがあるだろ、カードが」
「じゃあ、後頼んだよ。お先!」
「ぶちょ、ぶちょちょ、部長〜!!せめてタク券うをぉ〜」
「百年早い。じゃ!」
ぼったくりキャバの支払いを、35万ちょうどまでになんとか負けてもらい、店の外に出ると、東の空がすでに白々と明けかかっていた。
もう家まで帰りつくことは、不可能だし意味がない。
始発まで待って帰宅しても、トンボ帰りで出社することになるだろう。
わたしは新橋の駅前でダンボールの上に寝る人たちを眺めながら、ベンチの上に横になった。
明け方前の空のグラデーションは、それでもすごく綺麗だった。

イキルッテ、ソレダケデスバラシイ
イノチッテ、ソレダケデカガヤイテイル

   イキルッテ、イキルッテ、イキルッテ、イキルッテ、
   イキルッテ、イキルッテ、イキルッテ、イキルッテ…

<完>




いかがでしたか?
藤岡氏がプロットをつくり、わたくしが小説に仕上げるというコラボは、
下の本でも読むことが出来ます。
もし、この手がお好きでしたら是非。

事務局世話人 ワダマサシ



posted by 「HEART×BEAT」事務局 at 09:31| Comment(1) | 巻頭小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年02月11日

巻頭小説 「イキル」<4>

Story By 藤岡孝章×ワダマサシ

<4>

イきルッテ、ソレだケデス晴ラシイ
イのチッテ、ソレだケデカがやいテイル

昨日の気まずい想いを引きずったまま、わたしはオフィスへの扉を開く。
同僚達が一斉にわたしを見て、すぐに顔をそむけたように感じるのも今日に限ったことではない。
そんな事で心が折れてしまったら、もうそれで終わりだ。
「おはよう!」「おはよっ」「おはようございます」「おはようさん」「おっは〜!」
自分を鼓舞し、相手に合わせてさまざまなバリエーションの挨拶を振りまきデスクにつくと、わたしの机にだけ、コーヒーが用意されていなかった。
「と、ともちゃん。あらら」
おどけて催促してみせるわたしに、デスクの彼女は言った。
「部長が、鈴木さんには自分でやらせろって。ペナルティーらしいですよ」
お茶を自分で入れるぐらい、家事万能のわたしにとっては屁でもない。
昨今、むしろどの会社も「ドゥー・イット・ユアセルフ」になっているわけだし。
しかし、特別扱いで陰湿に差別されているとなると、もうこれは問題だろう。
部長に一言クレームしてやろうと、心でだけ思って、でも絶対にそんなことはしない。
それが、わたしという人間だ。
「あっそう。昨日叱られちゃったからしょうがないね。オレが悪いんだし」
ニッコリ笑って給湯室に向かう、わたし。
でも、肩がガックリと落ち込んでいるのは、誰の目にもはっきりしていたことだろう。
給湯室に入っていくと、そこでダベっていたベテランOL三人衆が一斉にわたしを見て、クモの子を散らすように出て行った。
洗い残された自分のカップを見つけ、ジャブジャブと洗っていると、洗剤が飛び散り目に飛び込んだ。
だからボロボロと涙が零れ出たのは、断じて洗剤のせいなのだ。
しばらく、わたしは給湯室で一人の時間をかみ締めた。

デスクに戻ると、そこには部長が手薬煉(てぐすね)を引いてわたしを待ち構えていた。
「モーニング・コーヒーかい?余裕があるんだねえ。すぐにわたしのデスクに来たまえ!」
「は、ははー!」
よからぬ話題である事は百も承知、あの拷問室のような部長のブースに入っていくのは、いつにも増して耐え難いほどの努力が必要だった。
「なな、なんでございましょう?」
「昨日キミが怒らせた、K商事の馬場課長。今晩の接待の場所の件なんだが」
「はい、昨日のうちに銀座の梁山泊を押さえて、先方に電話とファックスでお知らせしておきましたが。部長にもデスクに予定をお知らせしておいたはずですが…」
「ああ、聞いているよ」部長は言った。「ところがだねえ、馬場課長があそこじゃいやだって言うんだよ」
「な、なぜですか?たしか、あそこはお気に入りのお店ですし、馬場課長は焼肉大好きのはずですが?」
「ところがね、馬場さんたら、昨晩焼肉シコタマ食べちゃったらしいんだよ。二日続けてはキツイって。わかるだろ?」
「へ、へえ…。ではどうすれば…?」
「子供じゃないんだから、自分で考えなさい。じゃ、しっかり埋め合わせ頼むぞ!」
部長は、出て行こうとするわたしの後ろ姿に付け足した。
「馬場さん、どうもさっぱりと寿司でもツマみたい雰囲気だった。あの人は、魚は好きだが、白身は平目しか食えない。カレイじゃないぞ。それから、金目とかキンキとか赤魚なんて出したら大変だ。知ってるか?あの人、金魚飼ってて、異常に可愛がってるからな。卒倒しても知らんぞ。ポニョは四回見たそうだ。マグロは好きだが、赤身と大トロが食えない。早く言えば、中トロしか食わんてことだ。中オチは貧乏臭くて、見るだけで腹が立つらしい。イカはもんごうイカがダメで、するめイカだけが大好物。ヤリじゃないぞ、するめだ。貝類は異常に好きだが、最近夏ガキで当たったので今回は避けたいって。でも、赤貝のいいのが入っていたらヒモだけは是非食いたいと。シャリは固めをふんわり握ったのが好き。巻物は、手巻きがダメで巻き簾だけ。カイワレ大根にはアレルギーがあるから、刺身のツマにもまぜたらいかんよ。逆に芽ネギは外せないそうだ。意外にもかんぴょう巻きがお好きという庶民派の一面もあるが、通らしくワサビ入りで食べるから気をつけろ。あとは…」
ほとんど、部長が何を言っているのか、わたしにはわからなかった。
わたしは寿司は好きだが、寿司屋じゃないし、食ったとしても回転台に乗ってやってくるやつを、片っ端から口に放り込むだけだ。
しかも、一番好きな寿司屋は京樽で、好きなネタはお稲荷さんだぞ。
いったい、そのわたしにどうしろというんだ?
席に戻る途中で、もう一度給湯室に立ち寄った。
もちろん、目を洗うためだ。
誰かがリンゴでも剥いたのだろう、まな板の上の果物ナイフが鈍い光を放ち、今日はなぜか別のモノに見えた。


最終回へ続く

posted by 「HEART×BEAT」事務局 at 21:29| Comment(0) | 巻頭小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

巻頭小説 「イキル」<3>

Story By 藤岡孝章×ワダマサシ

<3>

生きルッテ、ソレだケデ素晴らシイ
いのチッテ、ソレだケデ輝いてイル

妻と寝室を別つようになったのは、いつのことだったろう?
それぞれがプライバシーを確保しながら生活すること自体は、そう珍しいことではない。でも2LDKのこのマンションで自分の寝室を持つのは、家内と長男の二人だけなのだ。
わたしの寝床は、リビングのテレビの前にあるソファー。
肘掛けの部分が心地いい枕に感じるようになったのは、いったいいつだったろう?
そうだ。あれは息子が高校受験に失敗して、第三志望の都立高校に通うことになった日だったっけ。
思い通りにならなかった受験結果を伝えに、この家に息子と帰ってきたあの雨の日からだった。
些細なことから起きた漣(さざなみ)のような小さな災いが、この家の人々をバラバラにしてしまうなんて。

あの日、夕飯を食べ終わり息子が部屋に閉じこもってしまってから、家内が思いつめたような顔を上げ、いきなりわたしに罵声を浴びせた。
「これじゃあ、四流大学にもいけるかどうだか…。え?いったいどうしてくれるのよ!」
「ど、どうって言われても…」
「あんたが頭が悪いから、子供にバカが遺伝したじゃないのさ!」
自分の方は棚に上げ、家内はわたしの遺伝子に怒りの矛先を向けた。
「お前、そう言うけどオレ達は大学の同級生じゃないか。頭の程度は、お前だって知れてるんじゃないか?」
「し、失礼ね!あたしは、浪人したくなかったからあそこで我慢したのよ!あんたは2年も浪人したくせに!この先天的ゴクツブシ!」
「あわわわわわ…」
あまりの言われように、わたしの返答は人の言葉にならなかった。
「あんたと一緒にいると、こっちまでバカが感染(うつ)るわ!」
家内は、そういうと寝室に引き篭もり、今晩と同じように「ガチャリ」と鍵をかけた。
しばらく居間で途方に暮れていると、寝室のドアがそっと開いた。
やっぱり夫婦だ、謝ってくるつもりだな…。
わたしの予想がいかに甘いものかは、次の瞬間に理解った。
開いた寝室の扉から、わたしのパジャマと毛布がリビングに汚物のように「バサッ」と投げ込まれたのが見える。
「お前、オレにここで寝ろってか?」
家内は、長い沈黙でわたしの質問に応えた。
「ま、まくら…は?」そう独り言して、わたしは自分が涙目になっている事に気づく。
いったいわたしの涙の源泉は、心のどこにあるのか?
悔しさ?惨めさ?
しばらく考えて、もっとも近い答えにたどり着いた。
わたしはその時、例えようもなく「孤独」だったのだ。
トントン。
思わず、わたしは息子の部屋のドアを叩いた。
「シュウ。おいシュウタ。お父さんと、ちょっと話をしないか?」
一人息子の返答は、わたしを絶望させるのに十分だった。
「うっぜえなあ!絶対に人の部屋に、入ってくんじゃねえぞ!」
瞳から溢れた涙が、青いワイシャツの胸にしみを作った。
あの晩から、わたしは家でもずっと一人ぼっちになった…。

イきルッテ、ソレだケデ素晴ラシイ
イのチッテ、ソレだケデ輝いテイル

翌朝、わたしが出かける時間になっても妻は寝室からでてこなかったし、修太が家に戻ることはなかった。
朝一のトイレで灰色のバリウムが便器から流れていくのを見て、わたしは昨日の昼食の味噌ラーメン以来何も食べていないことを思い出す。
うなり声を上げる冷蔵庫を開けると、カニ蒲鉾が目に付いた。
そばにあったパサパサの食パンにそれをはさみ、マヨネーズと胡椒で味をつける。
「うまい…」
久しぶりの食べ物は、どんなに粗食であってもわたしのヒビ割れた心を満たしてくれた。
こんなもので涙ぐめるのは、まだ幸せなことなのかもしれない。
いったん火がついたわたしの胃袋は、ストックされているはずのサンマの缶詰に照準を合わせていた。
扉を開け缶詰を物色していると、家内が起きてきて台所で水をガブガブと飲み始めた。
「お、おはよう…」
わたしの努めて明るい声の挨拶には応えず、家内は言った。
「そのサンマ缶、どうするつもり?」
「どど、どうするって、食うに決まってんだろう」
「ダメよ。アンタのために買ってきたんじゃないんだから」
「オレのためじゃない?ど、どういう意味だ?」
「ネコにあげるの」
「なんだって?ネ、ネコ?」
「駐輪場に子ネコが棲みついていて…可哀相でしょ。だから買ってきたの。それ返しなさい」
家内はオレの手から、強引に缶詰を奪い取る。
「野良猫のほうが、オ、オレより大事なのか?」
「あたりまえじゃない。ネコは買い物にいけないのよ!食べたければ、自分で買ってくればいいじゃない!」

こんな会話でも、家内とコミュニケーションできた事が幸せなのかもしれない。
わたしはそう納得して、わが家を後にした。
行きがけに駐輪場を見ると、なぜか子ネコはそこにいなかった。
それでも駅までの下り坂は、わたしのササクレ立った気持ちを、多少なりとも後押ししてくれた。
自転車で追い越していく女子高生や、駅に全速で駆けていく若者達。
あの眩しいほどのエネルギーは、いったいどこに消えてしまったのだろう。
改札を抜けると、足が竦(すく)むように感じるのはいつものこと。
なんとかそれに耐え、判で押したように7時2分発の通勤快速の前から2両目に乗るのも、わたしにとっては悟りを啓くための一種の業のようなものだった。
不思議なもので、こんな郊外の駅では、同じ電車の同じ入り口にはたいてい同じ顔が並ぶ。
初老のサラリーマンと会釈で挨拶を交わすのも、もう長年の日課だ。
---無言で交歓する魂のエール…。
“もう少しだけ、がんばりましょう…!もう少しだけ”

<4>に続く…



藤岡藤巻…息子よ
posted by 「HEART×BEAT」事務局 at 14:36| Comment(0) | 巻頭小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

巻頭小説 「イキル」<2>

Story By 藤岡孝章×ワダマサシ


<2>

生きるって、ソレだけで素晴らシイ
いのちって、ソレだけで輝いてイル

特に残業もなかったが、他の社員より先に帰るのも気が引けて、大半が社を出てから、我が家へと帰路に就いた。
誰ひとり、声をかけてくるものはいなかった。
これも、いつものことだ。
一時間半、酒臭い電車に揺られ、郊外の寂しい駅に下りる。
新興住宅街を抜けた先の坂道のどん詰まりに建つマンションが、いとしの我が家だ。
安普請の建売住宅が、息を切らせよじ登る坂道の両脇に並んでいる。
まるで嫌味のように、街灯はやたらに少ない。
駅の東口VS西口の開発競争に負けたせいで、ここいらの人通りもめっきり減ってしまったのだ。
神様、いつも引くのは貧乏クジってのは、いったいどういうワケなんだ?
薄暗い舗道から見上げる築15年のこの建物は、そろそろ外壁が剥がれかかっている。
そうだ、今週の日曜日は自治会の会合だ。
NOと言えない性格のせいで、毎年ナントカ委員にさせられるのだ。
溜息をつきながら重い鉄のドアの鍵を開けようとした時、中から怒号が聞こえた。
何かがぶつかって壊れるような、物騒な音もした。
ドアを開けるのを躊躇していると、ドタドタという足音と共に、背の高い若者が乱暴に飛び出してきた。
ボンクラ息子の修太だ。
わたしより、ゆうに頭蓋骨一個分長身だが、顔は異常に小さく、手足が細い。
ヤツを「高い高〜い」と言いながらここで抱き上げた17年前の光景が、なぜかフラッシュバックする。
彼はわたしを虫けらのように眺めると、呼びかける声を完全に無視してエレベーター・ホールの方に走り去っていった。
恐々と居間を覗くと、炬燵がひっくり返り食器が粉々に散乱しているのが見える。
靴下の足をそこに踏み入れ、絨毯が味噌汁で濡れているのがわかった。
妻は、その場にしゃがみ込んでヒクヒクと嗚咽を繰り返していた。

「どうしたんだ?ななな、なにがあった?」
何があったのか判らない訳はないが、一応訊かずにはいられるものか。
妻は愚問をスルーして、下を向いたまましゃくり上げ続けている。
わたしはとりあえず、炬燵を元に戻そうとした。
それをきっかけに、突然妻が金切り声をあげた。

「だいたいアンタがいけないのよ!しょうもない仕事ばっかりして、子供のことなんか全然...」
その後は、また身体が生理的に受け入れ拒否を始め、もう何も聞こえなくなった。
わたしは淡々とコーヒーカップや茶碗の破片を拾いはじめる。
「...受験...失敗...煙草...停学...」
ネガティブな言葉だけが、鼓膜を突き抜けて、わたしに襲いかかってくる。
とりあえず背広を着たまま、割れた食器を炬燵の上に集めている間、妻はずっと怒鳴り続けていた。
声のトーンがどんどん上がってきたので、いったん遮ろうと試みてみた。
「おい。いい加減にしろよ、隣から苦情が来るぞ」
挑発されたと感じた妻は、突然立ち上がると、私が片付けた炬燵を、改めてもう一度勢いよくひっくり返した。
「グワッシャーン!」
今度は前よりも広範囲に、いろいろなものが飛び散ったようだ。
「屁たれ男!」
そう一言トドメの啖呵を切ると、妻はそばに転がっていたスリッパを履き、この辺がこの女らしいやり方なのだが、割れた食器の上を「バリン、バリン」とわざわざ歩いて寝室に向かい、「バーン!」と思いっきり音を立ててそのドアを閉め、これみよがしに「ガチャリ」と鍵をかけた。

しばらく呆然と立ちすくんでいたわたしは、むき出しになった炬燵の電源コードが、濡れた絨毯に当たって、バチバチッと物騒な火花をあげているのに気づき、慌ててソケットを引き抜く。
焦げた味噌汁の匂いが、辺りに漂った。
それを嗅ぎながら、わたしは再びゆっくりと跡片付けを始めた。
そうでもしなければ正気を保てない神経細胞の危機を、わたしはハッキリと意識していたのだ。
二重にした不燃物のゴミ袋に、壊れたものをガラガラとぶち込み、濡れた布団をとりあえずベランダに放り出すと、長年愛用したバスタオルを雑巾に格下げして床を拭った。
このタオルが、わたしの結婚式の引き出物だったことが、一瞬脳裏を過ぎった。
ボーナスで買い換えようかと思っていた古掃除機で、床に残るガラスの破片を丁寧に吸い尽くす。
前回の家庭内の立ち回りの際にわたしが片付け残したガラスの欠片で妻が怪我して以来、慎重に隅々まで掃除機をかけるのが、暗黙の約束事になっている。
いちおう全てを終えて時計を見ると、もう午後11時になろうとしていた。
すっかり忘れていた空腹感が突然押し寄せ、冷蔵庫に貯蔵されているものを全て頭に浮かべたが、そのお陰で再び食欲は完璧に失せていた。
代わりにベランダに出て、一本だけ残っていたセーラムライトに火を点す。
ポケットにしまう直前に、包装紙の側面の警告文が目に入った。
“喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります…”
この中味が、健康を害するおそれがあるってか?
フン、上等じゃないか。
外は意外にも、綺麗な秋の星空だった。
わたしの置かれている理不尽な状況と夜空との圧倒的なギャップに気づき、不意に涙が零れていく。
胸のど真ん中から、同時に懐かしいメロディーが湧き出てきた。
――なんだったかな?この曲。
しばらく口ずさみ、それが『虹の彼方へ』である事に気づく。
“フェイス・オフ”という映画の悲惨な銃撃シーンで、この曲が流れると画面がスローモーションに変わったのを思いだしていた。
“音楽は、あなたの苦しみを癒すおそれがあります…”
今の自分に相応しい警告文を思いついて、溜息をつく。
紫の煙がマンションの窓辺から空に逃げるように溶けていった。


<3>に続く…


Somewhere Over The Rainbow--Judy Garland


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2009年02月10日

巻頭小説 「イキル」<1>

Story By 藤岡孝章×ワダマサシ

この作品は、エントランスページ初の巻頭短編小説です。
“藤岡藤巻”の藤岡氏の書きなぐりの秀逸な原案プロットを、
わたしがゴミ箱から救い出し、見事(?)小説にまとめたものです。

登場する人物像を作者と重ねてみたり、
実生活がこのようなものだったのかなどと、余計な想像をしたりしないコト。
あくまでも、フィクションである事を頭に叩き込んでからお読み下さい。

短編ですが、2日計4回ほどにわけ、
本人の希望により、タレントブログ並みにこまめにアップ予定です。

サラリーマンの毒のあるペーソスがお好きな人向けの小説ですので、
一応『R45』の男性推奨とさせていただきます。



イキル

<1>

生きるって、それだけで素晴らしい
いのちって、それだけで輝いている

午前中に半日の休暇をとり、成人病検診を受けた。
まあ年に一回の気休めのようなものだが、このわたしにだって人並みに健康を気遣う権利くらいあるだろう。
2時間ほどの足早な検査の後で、向こうの方が成人病のおそれがありそうな色白で脂肪太りの担当医が、わたしの身体の現状の傷み具合がタイプされた紙を手渡した。
特に、すぐにどうこうという疾患はないそうだ。
とは言っても、ほとんどの項目が「要観察」で、ガンマGTP,コレステロール値、尿酸値、中性脂肪等はどれも「要再検診」だ。
もう長いこと、こんな状態だから、特に何の用心もする気はない。
人間、死ぬ時が来れば死ぬ。それだけのことだ。
その時がいつかは分からないが、どう足掻いてみても死を免れた人間はいないのだから。

ちょうど昼飯時に検査が終わったので、病院の正門前の中華料理屋に入る。
味噌ラーメンのスープを半分以上残すという普段はしない行動こそが、胃に残るバリウムと健康診断票の御利益(ごりやく)ってもんなのだろう。
「いくら?」
650円也。
間違いない、去年はたしか590円だった。
妻の誕生日や結婚記念日は忘れるくせに、こんなつまらない事を完璧に憶えているのは、無駄に歳をとったせいだろうか。
トボトボと地下道を抜けてたどり着いた新宿駅のホームで、いっそ遠くの町へ行ってしまいたい衝動を抑え、わたしは首に巻かれた見えない鎖の持ち主のところへ今日も出向くことにする。
検診で午後出社になることは伝えてあったのに、職場の視線はいつにも増して冷ややかだった。
席に座るなり、目の前の女子社員が声をかけてくる。
「鈴木さん、部長がお呼びでしたよ。大至急ですって」
抑揚も表情もない口調なのに、ほんの少しだけ侮蔑のニュアンスが混ざって聞こえるのは、たぶん私の僻み根性のせいなのだろう。
「え?なんだろう、至急って…」
部長のデスクに向かおうとする私の背中に、彼女はパソコン・モニターを見たまま小さな声で付け足した。
「何回ケータイ鳴らしても繋がらないって、チョーチョー怒ってましたよ〜」
「え?だから、病院て言ったじゃ…な…い」
行き先のホワイトボードを見るとわたしの名札の横には、ただ「午後出社」と書いてあるだけだった。
その理由は、とっくに彼女に伝えてあったはずだ。
「健康診断」のたった四文字を付記してくれなかったのは、なぜなんだ?
診察中に、ケータイが通じないのは判りきっているだろうに。
文句を言おうかと思ったが、今さら彼女を問い詰めても状況が好転するワケもなく、かえって機嫌を損ねるだけだと自重し、わたしはパーテーションに囲われた死地に赴く。

「し、失礼します。鈴木です。ただいま戻りました!」
「ふぅ…」
部長は憔悴するわたしの姿を一瞥すると、ため息をつき肘掛のついた椅子にふんぞり返った。
「鈴木くん!どこに逃げ隠れていたんだね、キミは!あ〜ん?今朝いちばんで、キミの担当の...」
そこから先は、身体のほうが受け入れを拒否したかのように、何も聞こえなくなった。
しかし、話の内容は痛いほど判っている。
いつもねちっこくクレームをつけてくる取引先の課長が、オレに欲求不満をぶつけてきたのだろう。
「先方が...激怒...謝罪...見返りに...以後、出入りは...」
散りばめられたネガティブな単語だけが、なぜか耳から進入し脳にビシビシと届く。
とにかく終わるまでは、ただ頭(こうべ)を垂れているしかあるまい。
興奮と共に部長の声はどんどん大きくなり、部内はシーンと静まり返ってゆく。
社員たちの蔑むような気配が、背中に突き刺さるのが判る。
こんな事は今回が初めてではないが、そうかと言って何度やっても慣れるものでもない。
いつものように、脇の下が冷や汗でびっしょりになってくるし、頭はどんどん胸に埋まってゆく。
ネクタイの結び目が、顎にあたって痛いくらいだ。
部長の激昂のちょっとした隙間を見つけ、慌てて釈明をする。
「申し訳ございません!わ、わたくす、け、けけんこう、けけ健康、コケンコッコウ健康診断に行っておりまして…」
「ニワトリかよ?つまらん言い訳をしようとするから、舌を噛むんだ。大して働きもせんクセして、健康なんかわざとらしく気にするこたーないだろう!」
「いえ、あの、その…只今からすぐに、先方に、しゃしゃざ、しゃざ、謝罪に向かいますので...!」
「もうホントに!キー!ア〜タなんかが出向いったって、もう収集がつかない状態になってんのよ!アタシが電話で30分も頭下げてんのに、全然許してくれないんだから!」
この部長は、興奮するとだんだん、ヒステリックなオネエ言葉になってくる。
でも、それを面白がってる余裕はまったくないわけだが。
「し、しかし部長、今回の件は、先日、部長のゴゴッゴ、ゴーサインを頂戴して...」
「なに!?アタシのせいにするわけ?あ〜も〜、どうしたらそういうことが言えるんでしょ!ア〜タ、責任感ってものは持ってないの!そんな、自覚もプライドもなく仕事してるから、いつまで経ってもイイ齢して係長にしかなれないのよ!だいたいやね...」

脂汗と鼻水と冷や汗とを同時にしかも大量に分泌させられた挙句に、先方を招き謝罪のための宴席を設ける旨を命じられ、やっとのことで説教タイムが終了とあいなった。
「まっことに...申し訳ございませんでしたっ!」
最後に上半身を80度くらい倒して、気が遠くなるほどの長いお辞儀をしたが、おそらく部長はもう後ろを向いて、鼻クソでもホジりながら窓の外を見ていることだろう。
同僚の嘲笑の視線を全身で受け止めながら、席に戻る。
パソコンを立ち上げようとした時に、目の前の女子社員と視線が合ってしまった。
彼女は、明らかに口を歪めて「ザマー見ろ」と笑っていた。


<2>に続く





藤岡孝章(ふじおか・たかあき)
東京都大田区出身、早稲田大学中退。
「大嫌いシリーズ」「死ね!シリーズ」など強烈な歌を持つ、
おやじユニット「藤岡藤巻」のリードフォークギター。
元ソニー・ミュージックエンタテインメントの音楽プロデューサー。
ソニー・ミュージックエンタテインメント時代には、
シブがき隊のディレクターを務め、
『スシ食いねェ!』など特異な曲を創った。
但し本人曰く人を見る目はないそうで、
Mr.Children、シャ乱Q、槇原敬之、渡辺美里、工藤静香を
オーディションで落とした過去がある
「崖の上のポニョ」の主題歌の大ヒットで時の人に。
文芸社より童貞短編集「いいから、そこに座れ!」出版。









posted by 「HEART×BEAT」事務局 at 10:42| Comment(0) | 巻頭小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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